山口県立萩美術館・浦上記念館 本館特別展示室(和風展示室) 茶室のしつらえ

「風、水、根を張るべき場所」 古伏脇 司  平成19年4月14日~平成20年3月2日

 山口県立萩美術館・浦上記念館の和風展示室(茶室)は、アーティストによる茶室の空間表現の場として公開されています。2007年4月からは、第11回目として神奈川県在住の漆芸家、古伏脇 司(こふしわき つかさ)さんによる茶室のしつらえが展示されています。

これまでの茶室・展示作家
2007 第11回目 古伏脇 司 「風、水、根を張るべき場所」 漆芸
2006 第10回目 兼田昌尚  「且坐(さざ)ー稜線のムコウヘー」 陶芸
2005 第 9回目 橋本真之  「揺らぐ日々の中に」 鍛金
2004 第 8回目 福本潮子  「乗空の茶室一立礼の席一」 藍染
2003 第 7回目 中井川由季 「真夏の月」 陶芸
2002 第 6回目 柳井嗣雄  「境界-関係の通路として」 ファイバー
2001 第 5回目 椿 昇   「緑色的平凡」 現代美術
2000 第 4回目 三輪和彦  「黎‐REI‐」 陶芸
1999 第 3回目 内藤 廣  「Gaudiの透ける眼差し」 建築
1998 第 2回目 中川幸夫  「鏡の中の鏡の鏡」 生け花
1997 第 1回目 三輪龍作  「三輪龍作の美学 茶室のエロティシズム」 陶芸

「風、水、根を張るべき場所」  古伏脇 司  KOFUSHIWAKI Tsukasa
平成19年4月14日 ~ 平成20年3月2日

私の造形

古伏脇 司

 私は新しいかたちを生み出したい。それはただ純粋にこの世にない過去にはないかたちを造りだしたいということ、造形という言葉どおりのことがしたいのです。そのためになにをすればよいかを最優先に考え今の手法を選び、このかたちになっています。

 本当に独自のかたちであるのかということはともかく、気持ちの上ではなにものでもない私のかたちなのです。このように表明すると、すべてわが身から出たものと思われそうですが、素材やそれを活かす手法が偶然生み出すかたちから自分にはないものを得て、次作に発展することを積極的に行いますので、新しいかたちを生み出す協力者として素材や制作手法の存在があるといえます。素材とはうるしの事、手法とは漆芸のことです。うるしも漆芸もとてもたくさんの表情や世界があり、面白いことであふれています。

 生物の進化を表す図に系統樹というものがありますが、美術の中に当てはめて考えることがあります。もし大きな変革期の、たとえば写真が発明されなければどう違ったのだろうかと想像するのも面白く、そのように考えて創作部分を加え系統樹を考え直すと、求めている新しいかたちが得られるのではと思っています。

 私がうるしとそれを生かす技術を使って作品を作るのは、過去栄えていつのまにか伝統という歴史に縛られてきたと感じる漆芸を、系統樹の技の先からさかのぼり、幹から違った方向へ向けて進んでみると、その方向には現代の造形として多くの可能性が残されていると考えるからです。

 うるしという存在に気がついたのは、それは私たちが生きている現代について思うところがきっかけです。現代は物を大事にしない時代です。表現の世界もそれにならっていると感じます。表現が優先して、それが何で出来ているのか意識しないことも多い。そのなかで、素材を大事にする工芸の造形に強く惹かれ、中でも多種多様な表情を持つうるしの手法に惹かれたことが大きいのです。

 扱ってみて感じるのは、うるしの物質としての強さです。そして漆芸という洗練された手法も奥が深く、この両者の関係はとても面白いものです、しかしながら私が求めていることからするとこの両者の関係は手法の方向に偏ってしまっていると感じることもあり、つくられすぎた手法を一度解体して、物質としてのうるしが持つ造形への可能性を追求しているところです。

 私の作品もまた、それ自体で系統樹を形成する数と時間を経ています。過去、具象の形を制作途上で変形させるところから始まり、抽象化し、そして具象の主題を与えてさらに変化させてきました。それが私の制作の歴史です。扱う物質はかえずに、それ以外はどんどん変化させてきたのです。

 今回の作品群は今までのその流れからはやや違った場所にあります。それはこの茶室とともに活きる造形を考え、実践したからです。純粋に私の造形を考えただけではありません。茶室にあるということを考えた造形です。それらは植物が上へ伸びていこうとする形がもとになっています。

 私は勝手に植物の意識は本来まっすぐ上をめざしたいのではないかと思うことがあります。思い通りに伸びていったら、定規のようにまっすぐになってしまうのではないかと。しかし多くの状況がそのまっすぐに変化を与えます。光の方向、風、水、根を張るべき場所、自分自身の花や葉、実の重さなど、たくさんの事が重なって直線よりずっと複雑な魅力のある曲線を持ちます。

 美術館の中にあって茶室を具現化する建築技術は素晴らしいものです。しかし茶の場をたのしむには空間が思い通りにありすぎ、まっすぐに感じました。もっと光の方向 風、水、根を張るべき場所 そんな変化が必要です。茶室内外の作品たちでそんな変化を与えてみようというのが今回の展示主題です。そのようなわけでこれらの作品に「風、水、根を張るべき場所」と題名をつけ、思う場所に配置してみました。

 具体的な制作手法としては乾漆と呼ばれる古典技法をもとにしています。うるしと麻布を貼り重ねて形を作る、器や仏像に用いる技法です。樹液に近い生漆と呼ばれるうるしと米糊をまぜ、接着力を高めて麻布に浸し、繰り返して厚みをつけ強度を得ます。

 通常は粘土や石膏型などに貼り込んで行くのですが、わたしの場合は原形の作り方に工夫があり、それによって「風 水 根を張るべき場所」と名づけるにふさわしいかたちを得るようにしました。かたちというのは面白いもので、観る者にとって目にしてすべてを知るわけでなく、想像でおぎないながらその存在を理解しようとします。

 想像の部分とは見えぬ箇所や、素材や成り立ちの情報、かくされた主題なのですが、その想像の役に立つように作者はつくったものに関しての情報を題名や素材の表記をとおして伝えようとします。題名、主題、素材それぞれを伝えました。

 原形の作り方はどうぞ想像していただけるよう、秘密にしたいと思います。

(こふしわき つかさ/漆作家)

撮影/下瀬信雄
◆作品データ〈茶室〉
「風、水、根を張るべき場所07-01」 高さ2000mm 幅840mm 奥行280mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 綿布 石 鉛板

「風、水、根を張るべき場所07-02」 高さ1990mm 幅390mm 奥行290mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 石

「風、水、根を張るべき場所07-03」 高さ710mm 幅450mm 奥行110mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 綿布 試験管

「風、水、根を張るべき場所07-04」 高さ2225mm 幅410mm 奥行270mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 石

◆作品データ〈茶室屋外〉

「風、水、根を張るべき場所07-05-1」 高さ1730mm 幅1550mm 奥行260mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 綿布 石 ボルトナット

「風、水、根を張るべき場所07-05-2」 高さ1700mm 幅1630mm 奥行175mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 綿布 石 ボルトナット

「風、水、根を張るべき場所07-05-3」 高さ1655mm 幅1600mm 奥行245mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 綿布 石 ボルトナット

「風、水、根を張るべき場所07-05-4」 高さ1550mm 幅1730mm 奥行160mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 綿布 石 ボルトナット

「風、水、根を張るべき場所07-05-5」 高さ1910mm 幅1390mm 奥行200mm 制作2007年
  制作素材:漆 麻布 綿布 石 ボルトナット


古伏脇 司(こふしわき つかさ)

◆略歴
1961 東京都東村山に生まれる
1981 東京芸術大学美術学部工芸科入学
1985 東京芸術大学美術学部工芸科卒業
1987 東京芸術大学大学院美術研究科漆芸専攻修了
◆受賞
1996
第7回五島記念文化賞美術新人賞
◆パブリックコレクション
1995
The victoria and Albert Museum 、 London《ヒラクカタチ94-03》
1996
国際交流基金 東京《落下月2》
1998
Brooklyn Museum, New York 《兎98-06》
2002
Brooklyn Museum, New York 《月95-01》
2003
東京国立近代美術館 東京《草舟98-01》
2006
東京国立近代美術館 東京《乾漆車箱04-03》
◆個展
1990
ギャルリ・プス 東京 4/2-13
渋谷西武工芸画廊 東京 11/22-12/4
1991
ぎやらりい彩陶庵 山口 6/15-20
ギャルリ・プス 東京 11/18-30
1992
ギャラリーなつかb.p 東京 4/20-5/2
1993
ギャルリ・プス 東京 5/10-21
1994
ギャラリーなつか 東京 3/14-26
1995
日本橋高島屋コンテンポラリーアートスペース 東京 8/31-9/12
ギャルリ・プス 東京 12/4-22
1998
五島記念文化賞・美術新入賞研修帰国記念 古伏脇司展 ギャラリーなつか 東京 1/12-2/7
五島記念文化賞・美術新入賞研修帰国記念 古伏脇司展 ギャルリ・プス 東京 1/12-1/31
2000
ギャラリーなつか 東京 6/12-7/1
2001
ギャルリ・プス 東京 3/19-30
2002
アートポイントギャラリー 東京 4/15-27
2003
ギャラリーなつか 東京 2/3-22
2004
ギャルリ・プス 東京 3/15-26
2005
ギャラリーなつかb.p東京 9/12-24
2007
山口県立萩美術館・浦上記念館 和風展示室 「風、水、根を張るべき場所」 山口 4/14-2008/3/2
◆主なグループ展
1990
東京TOKYO展(有楽町西武アートフォーラム東京 9/13-10/8)
挑むかたち サントリー美術館大賞展90(サントリー美術館 東京 10/30-12/9)
1993
塗りの系譜(東京国立近代美術館工芸館 東京 2/2-3/21)
1994
特別展 漆の現在性(神奈川県民ホールギャラリー 神奈川 7/6-24)
1995
素材の領分一素材を見直しはじめた美術.工芸.デザイン(東京国立近代美術館工芸館 東京 10/4-11/27)
1996
Japanese Studio Crafts : Tradition 皿d the Avant-Garde(The victoria and Albert Museum, London 5/23-9/3)
1997
Rainbows and Shimmering Bridges: Contemporary JapaneseLacquer ware
 (The Japan Society Gallery,New York 2/15-4/7)
 (Denver Art Museum、Colorado 4/20-7/21)
1998
第3回美の予感〈日本画・洋画・工芸〉(日本橋高島屋美術画廊 東京 1/23-28)
1999
工芸オブジェの系譜(東京国立近代美術館工芸館 東京 7/17-9/5)
2000
日本の工芸〈今〉100選展(パリ三越エトワール パリ9/14-11/6 / 日本橋三越 東京 2/29-3/19)
2001
日蘭交流400周年記念日本現代漆芸展
 (ヤン・ファン・デル・トフト美術館 アムステルフェーン 4/18-5/22)
 (石川県輪島漆芸美術館 石川 6/17,7/16)
2002
五島記念文化財団設立10周年記念グループ展(Bunkamura Gallery 東京9/15-27)
現代日本工芸展一素材と造形思考
 (ギャラリーペトロナス クアラルンプール 3/19-3/30)
 (ナショナルギャラリー ジャカルタ 6/12-7/12)
2003
現代漆作家五人展 -京に集う-(祇をん小西 京都 11/1-9)
2004
机上空間のためのオプジェ展X’04 Part2(コンテンポラリーアートNIKI東京 1/22-2/4)
2005
アジアの潜在力(愛知県美術館 名古屋 5/24-7/10)
GLOBAL PLAYERS (Bankart横浜9/17-10/17)
TRANSFORMATIONS(National gallery of Australia Canberra  11/11-2006/1/29
2006
GLOBAL PLAYERS(Ludwig Forum Aachen 1/28-3/19)
背景をさぐるvo1.2(ギャラリーなつか 東京 6/26-7/8)

◆詳しいお問い合わせ先◆  山口県立萩美術館・浦上記念館
〒758-0074 山口県萩市平安古586-1  TEL:0838-24-2400/FAX:0838-24-2401