山口県立萩美術館・浦上記念館 本館特別展示室(和風展示室) 茶室のしつらえ

天空の茶室・立礼の席 福本潮子
 

 山口県立萩美術館・浦上記念館の和風展示室

(茶室)は、アーティストによる茶室の

空間表現の場として公開されています。

2004年3月からは、

第8回目として京都市在住の

染色家、福本潮子(ふくもと しほこ)さん

による茶室のしつらえが展示されています

  


  
これまでの茶室・展示作家
1回目 三輪龍作 「三輪龍作の美学―壱」 陶芸家
2回目 中川幸夫 「鏡の中の鏡の鏡」 生け花
3回目 内藤 廣 「Gaudiの透ける眼差し」 建築家
4回目 三輪和彦 「黎‐REI‐」 陶芸家
5回目 椿 昇  「緑色的平凡」 現代美術
6回目 柳井嗣雄 「境界-関係の通路として」 ファイバー
7回目 中井川由季「真夏の月」 陶芸家
 福本潮子さんは、藍染による現代造形の第一人者です。このたび、当館の四畳半茶室を「乗空の茶室一立礼の席一」として、展示していただきました。夜空にまたたく星のような白点、深遠な空問の広がりを暗示する青色の洛みなど、藍染のもつ幽玄の世界を、無尽のひろがりをもつ天空に見立て、現代的な立礼の席にしつらえた空間として現出させています。

 染めの美と神秘的な奥深さに魅せられた福本さんは、それが自己の表現に融合するものと確信し、1970年代後半から素秘の探求と技法の深化に没頭されてきました。染色の表現は、糸や布の繊維素材、染料、そして水までも吟昧し、制作過程における温度や湿度などの微妙な環境的諸条件をコントロールする技術的水準を前提として、はじめて創造的表現が可能となる造形です。この藍染による空間表現に、わたしたちが精神性の深みを感じるのは、福本潮子さんの造形思考が、伝統的染色技術に立脚しながらも、ただその技術的高みに満足することなく、藍染のもつ表現力の可能性を最大限に追究しようとする、スケールの大きい発想に基づいているからでしょう。当館の和風展示室(茶室)展示は、同時代的な視点から、最も先端性を示す表現活動を紹介する企画です。

 今回の展示は、自作の藍染作品を中心に、二代長野埋志さんの風炉釜、三輪和彦さんの陶器の道具類で構成されています。楕円のアクリルテーブル、ビクトリア朝の背付椅子や清朝の腰掻けが配された立礼席のしつらいは、茶の湯のこれからの方向性についての新たな提言ともなっています。藍染表現のもつ現代性とともにこの深遠で静譲な茶の湯空間をご堪能くだされば幸いです。


福本潮子 の 茶 室

天空の茶室 」

平成16年3月6日〜平成17年3月27日

 三年ほど前、ある建築家から椅子張りの相談を受けました。藍は摩擦堅牢度が比較的低く椅子張りに適していません。しかし特殊な樹脂加工が開発されていることを知り、可能性を感じて研究をすすめました。最高級の綿ベルベットを見つけ、それが椅子張りに適していることも分かりました。ベルベットに藍は深く美しい色に染まります。あるとき、骨董屋さんで見つけた椅子に試作の布を張ってみました。ヨーロッパのアンチックの椅子のデザインと、私が染めた藍染め布が、時代や地域のちがいを超えて響きあい、新しく蘇るのがおもしろく、椅子探しと椅子張りに夢中になっていると、置場所に困るくらい椅子がたまりました。
 

 萩美術館・浦上記念館から茶室の展覧会の依頼を受けたのはそんなときだったので、椅子張りをきっかけに、天空の茶室一立礼の席一のイメージが広がりました。今回、集めた椅子のなかで最も気に入っている1880年代のビクトリア朝時代の椅子を客用に使いました。京都の中国骨董家具を扱う店で北京から仕入れたばかりだという黒漆塗りのスツールを見つけ、その上に藍染の座を載せて、亭主と半東の椅子にしました。

 茶室の中心となる立礼席のための風炉釜を、二代目長野垤志に早くからお願いしておいたところ、黄銅眉風炉尻張筒釜「風」をつくっていただけました。また前衛陶芸家の三輪和彦さんに、茶碗、水指、茶壷、建水や、掛軸「流星」に対時する香合など、すべて白で創っていただきました。おかげさまで茶室の藍色の空間にそれぞれの作風が美しく響きあったと満足しています。

 四畳半の狭い空間ながら、椅子席でリラックスして、無限の宇宙に浮かんでいるような空間意識のなかで一服のお茶を味わう、それが「天空の茶室一立礼の席一」のイメージです。

福本潮子(ふくもとしほこ/染色家)

椅子「星斗」/畳縫紋藍染綿ベルベット張布

漆塗スツール(清朝)

楕円机「軌跡」/透明アクリル

黄銅・眉風炉・尻張筒釜「風」(二代目長野垤志)

水指「TENKU 2004」(三輪和彦)

茶器「天花」(三輪和彦)

茶碗「白に舞う碗」(三輪和彦)

椅子「蛍狩」/畳縫紋藍染綿ベルベット張布
   バルーンバック椅子(ビクトリア朝)


天空の茶席の愉しみ

 藍染の作家として国内外に熟知されている福本潮子さんは、近年、透視的な深みと広がりを感じさせる空間の構築に精力的に取り組み、染色の世界の表現性を拡げてきました。 今回の展示は、自作の藍染作品を中心に、二代長野垤志さんの風炉釜、三輪和彦さんの水指、茶碗などの陶芸作品で構成した空間表現です。楕円のアクリルテーブル、ビクトリア朝の背付格子や清朝の腰掛けが配された四畳半茶室での立礼席のしつらいは、茶の湯のこれからの方向性についての新たな提言ともなっています。

 深遠な藍色の底から、柔らかな白点が浮かび上がってくるような感覚を与える、ある種官能性をも秘めた福本さんの作品は、伝統的な藍染の技術に立脚しています。しかし、向き合う者に伝統に沿った観方を押しつけるような印像はまったく受けません。ここには、藍染という素材と技術、そしてそれらによる制作過程のなかに、作家個人の自立した現代的な造形思考があります。

 植物や動物に由来する繊維が紡(つむ)がれ、撚(よ)りが掛けられてできた糸。機織(はたおり)の技術がこれを材料にして布に変える。伝統的染色は、いわば線から面へと展開する繊維に対して、染用植物から抽出した色素を染着する技法です。ただし、染色の技術や制作の退程は一様ではありません。とくに蓼藍(たであい)という建染(たてぞめ)染料を用いた染色は、世界中で古くから行われた技法ですが、デリケートで最も管理しにくい素材を扱う高度な技術であり、それだけに作り手の技量が問われるものです。

 福本さんの藍染表現には、当然のことながら確固たる染色技術の裏付けがあります。ただそこには、単に「染める」ということの技術的な高みに満足せず、藍染のもつ表現力の可能性を追求しようとする、スケールの大きい発想が根底にあると考えています。染着段階における試行錯誤はもちろんのこと、糸や布にする繊維素材の吟味や選択、精妙なグラデーションを出すための絞りの工夫や染め上がっ繊維素材への加工など、素材の特性に応じたさまざまな技法を加える複雑な制作の過程はそのためでしょう。そして光と影や視線の移動によって、多様な表情をみせる藍染の視覚的特性を生かした空間構成も、表現として藍染の魅力を最大限に引き出そうとする進形思考から発していることなのです。

 福本朔子さんの深奥の藍の色彩に染められた立礼席の茶席。ここでは、ゆったりとした一服を楽しめそうです。

山口県立萩美術館・浦上記念館 学芸課主任 石崎泰之


福本潮子(ふくもと しほこ)
略歴
1945 大阪市に生まれる
1963 大阪市立工芸高校洋画科卒業
1968 京都市立美術大学西洋画科卒業

個展
1987/アーバンギャラリー(ニューヨーク、アメリカ)
1989/麻布美術工芸館(東京)
    ランハルツ・ニブロ・パビリオン(ストックホルム、スウェーデン)
1990/レスカミュージアム(イエテボリ、スウェーデン)
1993/高島屋美術ギャラリー(ニューヨーク、東京、京都)
1995・98・01/Bellas Art Gallery(サンタフェ、アメリカ)
1996/辰野美術館(長野)
1999/大阪府立現代美術センター 今日の作家シリーズ32(大阪)
    高島屋美術画廊(東京、京都)
2001/福本潮子 銀河シリーズ Bunkamura Gallery(東京)
2002/幽玄に遊ぶー福本潮子の藍世界 むろまち美術館(京都)
    マーゴヤコブセンギャラリー(ポートランド)
2003/INAX GALLERY2(東京)、ART COUT Gallery(大阪)

グループ展
1978-83/京都工芸美術展(79大賞、'82優秀賞、183新人賞受賞/京都)
1983/海そのイメージと造形展(下関市立美術館)
1986/INDIGO-natural blue(王立トロペン博物館/アムステルダム、オランダ)
1987/工芸世紀末の旗手たち展(サントリー美術館/東京)
    近代の潮流一京都の日本画と工芸一(京都市美術館)
1987-92/第13-15回国際タペストリービエンナーレ展(ローザンヌ州立美術館/スイス)
     (第15回展から「国際ローザンヌビエンナーレ展」に改名)
1988-89/日仏現代美術展(東京都美術館、国立グランバレ美術館/パリ)
1989-92/次代を拓く新しい茶の造形展(日本橋三越/東京)
1991/染と織一現代の動向2(群馬県立近代美術館)
1992・93・95・03/MINIARTEXTIL COMO(コモ、イタリア95、03はLarge peice招待部門)
1993/台北國際傳統工芸大展(台北)
1992-2003/第2-13回染・清流展(京都市美術館、
        97、98、99、00、02は目黒区美術館に巡回)
1995/現代京都の工芸展(京都文化博物館)
    '95金沢工芸大賞コンペティション〈招待出品〉(金沢)
    大阪トリエンナーレ1995一彫刻(マイドームおおさか/大阪)
    今立現代美術紙展95(いまだて芸術館/今立町、麻布美術工芸館/東京)
1996/1er BIENNALE DU LIN〈招特出品〉(ルーアン、パリ/フランス)
    '96淡交ビエンナーレ(茶道資料館/京都、三越/新宿、大阪、久留米)
1997/<タカシマヤ美術賞受賞>
    第5回国際テキスタイルコンペティション'97一京都一(京都文化博物館)
    TRACING PURPOSE : internationel Textile Exhibition(カンザスシティー)
1998/アジアンアバンギャルド・ロンドンクリスティー(イギリス)
1999/第4回国際タピスリービエンナーレ(ボ一ベー/フランス)
    清州国際工芸ビエンナーレ展 招待部門(清州/韓国)
1999-2000/日本の工芸「今」100選展三越(パリ、東京、広島、福岡、福島)
2001/21世紀を拓く新春展〔京都の作家10人の展覧会)四条高島屋(京都)
    textural SPACE(ブライトン、ファーナム、マンチェスター/イギリス)
    京都の工芸一1945-2000〈京都国立近代美術館/京都、東京国立近代美術館/東京)
    現代の布(東京国立近代美術館工芸館/東京)
    九州産業大学芸術学部工芸学科開設・新棟落成記念工芸作品展覧会
       (九州産業大学美術館、芸術学部アートギャラリー/福岡)
2002/新蔵品展(ミュージアムフォーアーツアンドデザイン/ニューヨーク)
    タカシマヤ美術賞展(高島屋/東京、横浜、大阪、京都)
   日本・中国・韓国の現代美術一東アジア現代美術にみるモノクロームの美意識
        (大阪府立現代美術センター/大阪)
    From Lausanne to Beijing-20C2 International Tapistry Art Bienneale
        (精華大学/北京)
2003/SHIBORl Fabric Transformed
        (KUNSTBANKEN/Hedmark Kunstsenter/ハマー/ノルウェー)

作品所蔵
 国立国際美術館(大阪)
 東京国立近代美術館(東京)
 京都国立近代美術館(京都)
 ミュージアムフォーアーツアンドデザイン(ニューヨーク、アメリカ)
 レスカミュージアム(イエテボリ スウェーデン)
 ポートランドアートミュージアム(ポートランド、アメリカ)
 京都府(京都)
 高島屋資料館(大阪)
 大阪府文化振興財団(大阪)
 現代染色美術館一準備窒一(京都)

◆詳しいお問い合わせ先◆  山口県立萩美術館・浦上記念館
〒758-0074 山口県萩市平安古586-1 TEL:0838-24-2400 FAX:0838-24-2401