山口県立萩美術館・浦上記念館 本館特別展示室(和風展示室) 茶室のしつらえ

椿昇の茶室・緑色的平凡 平成13年1月3日(水)〜12月24日(月)

山口県立萩美術館・浦上記念館の茶室は、アーティストによる茶室の空間表現の場として公開されています。
 2001年1月からは、第5回目として神戸市在住の作家・椿 昇(つばき のぼる)さんによる茶室のしつらえ「緑色的平凡」が展開されています。

 この茶室の第1弾は、萩市在住の陶芸家、三輪龍作による「三輪龍作の美学―壱」として茶の精神、美意識をエロティシズムで表現し固有の茶室空間を創造しました。
 98年1月からは、その第2弾として、東京都在住のいけばな作家、中川幸夫(なかがわ ゆきお)による茶室のしつらえ。染織家福本潮子の藍染めが四畳半一面に敷きつめられ、中央にラベンダーの花粒がちりばめられたその空間は、「茶室は自分の心を写し出すところ」という中川幸夫の概念を表出したものが展開されました。
 第3回目、東京都在住の建築家、内藤 廣(ないとう ひろし)による「Gaudiの透ける眼差し」と題された茶室は、倒錯する眼差しにより既成概念の中に埋没した茶室空間そのものを問い直すことを表現しました。
 第4回目、萩市在住の陶芸家、三輪和彦(みわ かずひこ)による「黎‐REI‐」は400年に及ぶ伝統的精神の歴史を内包する空間への新たな試みを表現しました。


緑 色 的 平 凡 / 椿 昇 (つばき のぼる)

縁色的平凡一plants man

 搬入を間近にしながら私のスタジオも頭の中も取り散らかした子供の部屋のような有様です。いやはや困ったものだと思いながらその散らかり具合の妙な心地よさにたっぷり酔っています。次々に送られてくるダイレクトメール。美術館や画廊の案内、通販の分厚いパンフレット、新しい商品の案内が毎日のように送りこまれてくるパソコンのなかには膨大なEメールとブラウザのお気に入り欄。猫の目のように更新されるWindowsのOSやドライバソフト、少しでも早く安い通信環境を求めて次々に破棄される契約。もう携帯端末だけでも何台買い換えたかと思うと気が変になりそうです。かく言う私は生物学的には折り返し点を超えたあたり、時折こんなマニアックな生活をいつまで続けているのだろうと不安が蘇るのですが、パソコンショップのチラシで新製品を眺めるともうたまりません。レジに並んでカードを握り締め「3回でお願いします!」と口走るのです。

 うつけ、放蕩、たわけもの。神戸で震災に遭ってから益々人生観が変わってしまいました。巨額の財政赤字と少子高齢化の憂鬱にクヨクヨしながら貯蓄することや、チビチビ年金をかさ上げするのはもう止めました。酔い越しの銭どころかカードの払いをしばしば滞納して督促される始末。バグダッド・カフェで有名になったパーシー・アドロン監督の眠れる迷作、無数のカードに埋まりながらひたすら蕩尽を繰り返す「ロザリー・ゴーズ・ショッピング」の悪夢がよぎるのです。

 ところがところが、こうして混乱と混沌を身にまとって幕らすうち、どうやら21世紀は体も頭も分裂状態で放っておくのが、よろしいのではと思うようになりました。ネットワークや雑踏のなかに否応無く解体されるアイデンティティーは、湖水に降り始めた雨が無数の波紋を描くように不連統な強さを発揮しはじめました。無理に西洋のものまねをして小さな自我に汲々とするくらいなら、酔拳の達人の如くしたたかに酔いどれて(酒とは限りませんが・・・)、大きなうねりに身をゆだねるのが得策かもしれません。

 さて、2OO1年の萩美術館・浦上記念館のお茶室には、一幅の軸を作らせていただきました。関が原から大坂夏の陣。戦国の気風を色濃く残す江戸初期に生まれ、官僚化する武家社会に媚びて様式美に陥ってゆく狩野派〔かのうは〕から破門された久隅守景〔くすみもりかげ〕が、晩年金沢の地で描いたとされる傑作「タ顔棚納涼図〔ゆうがおだなのうりょうず〕」。タ顔の下でのんびり夕涼みする農夫の一家の主殿に、今回始めての試みとして、修復技術者の力と高性能コンピュータの力を借りて少し「ててら」(上着)を脱いでいただくことにいたしました。ガラス越しの空間には、バイオを駆使した水耕栽培の瓢箪がぶら下がっています。元禄〔げんろく〕から300年を超えてサイバーに蘇った夕顔は、遠隔操作のロボットによって世界中どこからでも水遣りができるようにさせていただきました。美術館と同じ町内のインターネットエクスプローラからも、地球の裏のネットスケープからも、貴方のポケットにあるiモードからも茶室の瓢箪に水遣りができます。源内〔げんない〕さんや若沖〔じゃくちゅう〕さんが生きておられたら、ぜひともこのお茶席にお招きし、新しい世界と古い世界が逆しまに戯れる様を御見せしたかったと思います。

招待アーティスト  椿 昇(つばき のぼる)


椿 昇(つばき のぼる)

1953年京都市生まれ
京都市立芸大美術専攻科修了
第3回宇部新人ビエンナーレ佳作受賞
京都府作品所蔵

「アゲインストネイチャー:80年代の日本現代美術」(1989年サンフランシスコ近代美術館他)
第45回ベニスビエンナーレ・アベルト「エマージェンシー」(1993年)
「ジャパン・トゥデイ」(1995年ルイジアナ美術館、コペンハーゲン)
「デジタルバウハウス」(2000年、NTTインターコミュニケーションセンター)など国内外にて展覧会

「漂流教室」(1997年、京都国立近代美術館)ワークショップを企画
「宇宙老人アキラ」(1999年、水戸芸術館)ワークショップを企画
2000年ハノーバー万博日本館テラドーム監修

2001年横浜トリエンナーレ出品予定

デジタルユニット「Metapolice」主宰


セッティングの様子

風避け、低温対策のため透明シートを覆う ライブカメラのためのサーバーマシン
電脳的昆虫?! 水耕栽培のタンク、瓢箪の根がビッシリ
茶室横からの全景 電脳的昆虫その2?!
セッティングをする椿昇さん 科学実験室のような・・・

◆詳しいお問い合わせ先◆  山口県立萩美術館・浦上記念館
〒758-0074 山口県萩市平安古586-1 TEL:0838-24-2400 FAX:0838-24-2401