藍染の作家として国内外に熟知されている福本潮子さんは、近年、透視的な深みと広がりを感じさせる空間の構築に精力的に取り組み、染色の世界の表現性を拡げてきました。 今回の展示は、自作の藍染作品を中心に、二代長野垤志さんの風炉釜、三輪和彦さんの水指、茶碗などの陶芸作品で構成した空間表現です。楕円のアクリルテーブル、ビクトリア朝の背付格子や清朝の腰掛けが配された四畳半茶室での立礼席のしつらいは、茶の湯のこれからの方向性についての新たな提言ともなっています。
深遠な藍色の底から、柔らかな白点が浮かび上がってくるような感覚を与える、ある種官能性をも秘めた福本さんの作品は、伝統的な藍染の技術に立脚しています。しかし、向き合う者に伝統に沿った観方を押しつけるような印像はまったく受けません。ここには、藍染という素材と技術、そしてそれらによる制作過程のなかに、作家個人の自立した現代的な造形思考があります。
植物や動物に由来する繊維が紡(つむ)がれ、撚(よ)りが掛けられてできた糸。機織(はたおり)の技術がこれを材料にして布に変える。伝統的染色は、いわば線から面へと展開する繊維に対して、染用植物から抽出した色素を染着する技法です。ただし、染色の技術や制作の退程は一様ではありません。とくに蓼藍(たであい)という建染(たてぞめ)染料を用いた染色は、世界中で古くから行われた技法ですが、デリケートで最も管理しにくい素材を扱う高度な技術であり、それだけに作り手の技量が問われるものです。
福本さんの藍染表現には、当然のことながら確固たる染色技術の裏付けがあります。ただそこには、単に「染める」ということの技術的な高みに満足せず、藍染のもつ表現力の可能性を追求しようとする、スケールの大きい発想が根底にあると考えています。染着段階における試行錯誤はもちろんのこと、糸や布にする繊維素材の吟味や選択、精妙なグラデーションを出すための絞りの工夫や染め上がっ繊維素材への加工など、素材の特性に応じたさまざまな技法を加える複雑な制作の過程はそのためでしょう。そして光と影や視線の移動によって、多様な表情をみせる藍染の視覚的特性を生かした空間構成も、表現として藍染の魅力を最大限に引き出そうとする進形思考から発していることなのです。
福本朔子さんの深奥の藍の色彩に染められた立礼席の茶席。ここでは、ゆったりとした一服を楽しめそうです。