山口県立萩美術館・浦上記念館
本館特別展示室(和風展示室)
茶室のしつらえ

 山口県立萩美術館・浦上記念館の和風展示室

(茶室)は、アーティストによる茶室の

空間表現の場として公開されています。

 2003年3月からは、第7回目として茨城県在住

の陶芸家、中井川由季(なかいがわ ゆき)さんに

よる茶室のしつらえが展示されています。


  

これまでの茶室・展示作家
1回目 三輪龍作 「三輪龍作の美学―壱」 陶芸家
2回目 中川幸夫 「鏡の中の鏡の鏡」 生け花
3回目 内藤 廣 「Gaudiの透ける眼差し」 建築家
4回目 三輪和彦 「黎‐REI‐」 陶芸家
5回目 椿 昇  「緑色的平凡」 現代美術
6回目 柳井嗣雄 「境界?関係の通路として」 ファイバー

中井川由季 の 茶 室

真 昼 の 月 」

平成15年3月1日〜平成16年2月29日

真昼の月

真昼の月は人に愛でられることもなく、薄い影のようにおぼろげに浮かんでいる。
文化と呼ぱれるものの多くは、その制度と様式が長い歴史の内に疲れ、様々な人の思惑に絡み捕られているうちに次第に薄くなります。そして今、押し寄せる変化に旧来の文化や制度が拠って立つ場を失いかけている事は、周知のことと思われます。
「茶の湯」の文化も例外ではないでしよう。私には「茶の湯」の姿や本来の意味は見えにくく、時代劇のひとコマとしてや、女性の習い事のひとつというような大雑把なイメージしか浮かびませんでした。おおよそ四百年前に確立したといわれている「茶の湯」が、待合、露地、茶室といった建築物や庭、取り揃える道具、活ける花、掛ける軸に至るまでその総てが、芸術と教養の表現現場であったことは想像できます。ただ、その表現活動が、どのように今に結びついているのか僅かな知識から汲み出すことは困難でした。
お茶室と作品を合わせるという企画に対し、戸惑いを感じながらも試みようと思ったのは、途切れがちなアウトラインをなぞりながら、今を生きる私を座らせて、長い歴史の間に現代との接点が埋没してしまったかのような、「茶の湯」のおぼろげな形を見てみたいという思いからです。そのお茶室は近代的な美術館の中、ガラスと鉄とコンクリートに仕切られた一角に在りました。
今回、私は美術館そのものを露地にみたてました。露地が茶室に至るまでに日常をそぎ落とす通路としてあるのなら、美術館はそのまま人が日常を離れることのできる場所として、現代の露地ではないかと思ったのです。中庭には「静かに動き続ける」という作品を置きます。茶室の入りロヘ向かうスロープから眺めることの出来る位置にそれは在ります。茶室には四畳半のサイズIこ不釣合いかと思われるような大きな作品が、ごろりとしています。そして、茶室のすぐそばのテラスにもごろりと、もうひとつあります。「月を喰む」、「月に寝る」という作品です。床壁には「月に浮く」を掛けました。
ここ数年、生活と制作の場であるクヌギ林の住まいから“日々出会うかたち”を抽出して作品のモチーフにしてきました。このことは私に、まわりを見つめる目と気配を感じる感覚を少しずつ深くしてくれている様に思えます。その感覚のままに茶室に身を置きながら、四畳半の限られた空間に要素を簡素に取り入れ、そこに宇宙を感じて来たいにしえの人々の想像力に思いを馳せて佇むことは、私にとって楽しいことでした。日常の抽出から始まる作品作品は、粘土を毎日積み上げるという繰り返しの中で徐々に姿を現し、現実の形になって戻ってくる。私の生活はあたかも、露地のような通路を通りながら現実と想像を行ったり来たりしています。粘土を積み上げることから焼き上げて大きな作品に組み上げて行く工程は、長い時間を要します。その掛かる時間と生活は、渾然一体となって私の日常になります。“作るという日常”と“想像”の間の通路を開くことで、“いにしえ”と“現在”の通路を行き交うことが出来るのではないかというほのかな望みを抱いて、続けたのです。
「月」は古くから歌に詠まれ、物語に幾度も書かれて来ました。お茶の世界でも「月」は特別な存在だと伺いました。ほんの少し前まで、月は夜道を照らす灯りとして、あるいは書物を読むときの手助けとして、重要であり身近であったのでしょう。そんな月が今、煌々と明るい街の中で、その存在が薄くなっているように思えます。長い歴史を持つ茶の湯という「文化の月」と「現代の空の月」、二つを象徴する言葉として今回、「真昼の月」というタイトルを展覧会名にしました。けれど、月は人々の目に映ろうが映るまいが、毎日昇る、見えなくとも存在する、こちらの受け止め方の問題なのかもしれません。
薄暗い茶室に浮かぶ人々と物との寡黙な集いを想像し、暗闇と静寂を消しつつある現代との間に流れる時間の長さを計りながら、作品を傍らに暫し「真昼の月」を眺めていたい。

中井川由季


中井川由季(Nakaigawa Yuki)
略歴
1960 茨城県に生まれる
1984 多摩美術大学絵画科卒業
1986 多摩美術大学大学院修士課程美術研究科修了
199O AR.CO(ビジュアルアートコミュニケーションセンター、ポルトガル)招聴により滞在、制作
2002 滋賀県陶芸の森招聘講師として滞在制作

個展
1985 ギャラリーQ(東京)
1986 ギャラリーQ(東京)
1987 ギャラリーマロニエ(京都)
1990 ギャラリーなつかb.p(東京)
1991 マスダスタジオ(東京)
    スタジオコム(京都)
1992 ギャラリーNWハウス(東京)
    ギャラリーTAO(東京)
1993 ギャラリー小柳(東京)
1994 ギャラリーTAO(東京)
    ギャラリー天竺(東京)
1995 マスダスタジオ(東京)
1996 ギャラリー目黒陶芸館(三重)
1997 コンテンポラリーアートNIKl(東京)
    アートスペイスジョナイサ力(栃木)
1998 なるせ村田画廊(東京)
1999 ギャラリー小柳(東京)
2000 マスダスタジオ(東京)
2001 エキジビション・スペース 東京国際フォーラム(東京)
2003 山口県立萩美術館・浦上記念館(山ロ)

グループ展
セラミックマーケット(ギャラリーQ、東京)、上野毛セッション表現の現場から(多摩美術大学上野毛校舎、東京)、陶・犬・瓦・鶏(村松画廊、東京)、セラミックマーケット(ギャラリーQ、東京)、セラミックアネックスシガラキ・86(滋賀県立近代美術館ギャラリー信楽伝統産業会館、滋賀)、第一回国際陶磁器展美濃'86(多治見市特別展覧会場、岐阜)、ア ハッピー二ューセラミックス(ギャラリー玄海、東京)、浪満桜(彩美ギャラリー、神奈川)、セラミックマーケット10ポンドオブジェ(ギャラリーQ、ギャラリー+1、東京)、ユールの夜に灯展(渋谷西武工芸画廊、東京)、モダンアートセール展(京二画廊、東京)、速脱郷としての羅針盤(神奈川県民ホールギャラリー、神奈川)、'88 MINO展女性陶芸家交流展(多治見市文化会館、岐阜)、クレイワークス現代陶芸展(たまプラーザ東急百貨店アートサロン、東京)、クレイアート'88(佐質町工キジピットスペース、東京)、ナビダットの夜に灯展(渋谷西武工芸画廊、東京)、クレイコネクション'90(目黒区美術館区民ギャラリー、東京)、セラミックアネックスシガラキ'91(滋質県立近代美術館ギャラリー、滋賀)、土・メッセージ イン 美濃(多治見市文化会館、岐阜)、装身具展(ギャラリー器館、京都近鉄阿倍野クリエイターズ、大阪)、アートをふたものにする展(池袋西武JCギャラリー、東京)、風の造形展(すみだリバーサイドギャラリー、東京)、セラミックスカルプチャー'92空間考(セラミックアートギャラリー、東京)、中井川由季・西山真美展(東京電力プラスマイナスギャラリー、東京)、机上空間のためのアートワークス展lV(コンテンポラリーアートNIKl、東京)、嗜欲の器展'95(ギャラリーいそがや、東京)、机上空間のためのアートワークス展V(コンテンポラリーアートNIKI、東京)、交換する陶芸クレイワークス lN 瀬戸'96(愛知県陶磁資料館ギャラリー、愛知)、1996α(なるせ村田画廊、東京)、手と目の冒険広場:心を癒す植物アートボタニカルガーデン(目黒区美術館、東京)、現代陶芸の若き騎手たち(愛知県陶磁資料館、愛知)、ゆたか あなたも幸せになりたいでしょう(徳島県立近代美術館、徳島)、美の予感展(高島屋美術画廊、東京、横浜、大阪、京都)、第2回雨引の里と彫刻(茨城・大和村)、机上空間のためのアートワークス展VI(コンテンポラリーアートNIKI、東京)、陶芸の現在的造形 The Spilit of Contemporary Ceramics(リアスアーク美術館、宮城)、八郷の作家三人展(八郷町役場、茨城)、机上空間のためのアートワークス展Vll(コンテンポラリーアートNIKl、東京)、第3回雨引の里と彫刻(茨城・大和村)、茨城陶芸の現在(茨城県陶芸美術館、茨城)、机上空間のためのアートワークス展VV(コンテンボラリーアートNIKI、東京)、現代陶芸の精鋭一21世紀を聞くやきものの手法とかたち一(茨城県陶芸美術館、茨城)、第4回雨引の里と彫刻(茨城・大和村)、ONE FOURTEEN GALLERY(茨城県つくば美術館、茨城)、小さな宇宙展(市之倉さかづき美術館、岐阜)

受賞
1989 第二回国際陶磁器展 美濃'89 審査員特別責(多治見市特別展覧会場、岐阜)
パプリックコレクションアルゼンチン近代美術館「日本の家」準傭委員会
滋賀県陶芸の森創作研修館

コミッションワーク
1996 流山社宅工ントランスホール(千葉)
1997 二期倶楽部新館エントランスホール、ラウンジ(栃木)
1998 原町田パセオビル1階エントランス(東京)
1999 東八聖苑中庭(山梨)
2001 清音閣(マンション)エントランス、中庭(東京)

◆詳しいお問い合わせ先◆  山口県立萩美術館・浦上記念館
〒758-0074 山口県萩市平安古586-1 TEL:0838-24-2400 FAX:0838-24-2401